- Q:本作を初めて観たのはいつですか?どんな感想を持ちましたか?
- 最初のエピソードを、ロサンゼルスのエースホテルで行われたワールドプレミア上映(2017年5月)で、スクリーンサイズで観客と一緒に観ました。初めてフッテージを観た時にも驚きがありましたが、とにかくびっくりした。すごく強烈でした。今まで観てきたものとは全く違う。非常に引き込まれ、衝撃を受けました。
- Q:撮影に入る前、演じる役についてはどの程度知っていましたか?
- 台本を読んだ時に、私は何役かを演じるということを知り、そして、クーパーは一人ではないということもわかりました。コスチュームデザイナーのナンシー・スタイナーやリンチと話し合って、外見を決めていきました。メイクもヘアも実験を重ねましたが、Mr.Cは難しかったですね。コンタクトレンズがいいんじゃないかと言ったら、ふたりも気に入ってくれて採用されました。とにかく時間をかけて作り上げていきました。
- Q:ダギー・ジョーンズについて教えてください。
- ダギーは、役の設定として初めて世の中を発見する、初めていろんなことに出会うという点がポイントです。だから、役そのままに、初めて世界を発見するとはどういうことかと考えながら演じました。ネクタイを頭に結ぶシーンは、即興でやったんですよ(笑)。ダギーだったら何をするかと考えた時、リンチがその場で思いついたアイデアでした。もし父親がそういうことをやったら、息子が喜ぶでしょうということで、僕自身もすごく面白いと思いました。
- Q:ダイアンをローラ・ダーンが演じるというアイデアについて。
- 僕もびっくりしたよ!考えてもいなかった。リンチも、わざと僕に内緒にしていたんだ(笑)。聞いた時にはもうびっくりして、でもすごくいいアイデアだと思いました。撮影もすごく楽しかった。最初の方の彼女とのシーンは、あまりハッピーではないけれど、後の方になると、ちょっとビタースウィートなシーンがあるんです。そうした彼女とのシーンにおける変化も非常に楽しみました。
- Q:ナオミ・ワッツとの共演はいかがでしたか?
- ナオミ・ワッツは本当に楽しい人で、一緒に仕事することを心から楽しみました。彼女がずーっとしゃべり続けている一方で、ダギーはほとんど黙っていて台詞がない、というシーンがあって、「僕のきっかけの台詞はなんだっけ?」と言ったら、「あなたは一言しか言わないでしょ!」と突っ込まれたりしてね(笑)。それから、面白いのはナオミとリンチとの関係で、ナオミはよく彼をからかったり、ちょっかいを出したりするんだ。それは僕とリンチのそれとは違うもので、リンチと長く組んでいる俳優それぞれに、少しずつ異なる関係性があるというのが見ていて楽しかったですね。
- Q:リンチは今回も音楽にこだわっていますね。
- アンジェロ・バダラメンティのあのテーマ曲は「ツイン・ピークス」を代表する、非常に重要な要素。ワールドプレミア上映でも、最初に流れた時に観客からもわーっと声援があがったんですよ。感動的でした。どこかノスタルジーな旋律ですからね。 でも、リンチとしては、前作と同じ「ツイン・ピークス」を繰り返すのは避けたい、今回の新シリーズでは何か全く違うものを作る、バージョンアップというか前進させるということを意識しているんです。毎エピソード、最後に楽曲が流れますよね。リンチは今回、18時間の映画を撮っているんです。だから、1時間ごとに物語を区切るのは非常に難しい。いわゆる連続ドラマのようには構成していないから。そういう中で、音楽を、ひとつのエピソードから次のエピソードに進むための媒介にしている。音楽に役割を与えたんです。
- Q:あなたにとってデイヴィッド・リンチとは?
- すごく重要な存在です。最初の2本の映画『デューン/砂の惑星』と『ブルーベルベット』に出演した時、僕はそれまでは舞台ばかりやっていたので、リンチに起用されなければ、このようなキャリアは築けなかったかもしれない。彼の作品に出ると、彼の世界観、彼が持つ膨大な知識に触れることができる。だから昔も今も、彼のことを非常に頼っているんです。
- Q:あなたにとって「ツイン・ピークス」とは?
- 今までで一番重要な作品だし、自分が関わった作品の中で最も人々に愛されている作品だと思います。「ツイン・ピークス」という作品自体が、まるで生命力を持っている生き物みたいなもの。成長、進化を続けるこの作品自体が僕の目標であり、自分自身の資本でもあります。
- Q:新シリーズの第1章を観た時の感想を教えてください。
- 原:終わり方が終わり方だったので、今度はクーパーがどういう風に覚醒していくのかなと、本当に楽しみにして見ました。
池田:僕は前回、カタルシスというか、終わったという感慨がなかった。だから今回、ああ、25年ぶりにまたやるのか、やっぱり終わっていなかったのかという思いですね。
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- Q:そして、今度は本当に終わるのか、という思いですよね?
- 池田:そうそう(笑)。
江原:最終話でクーパーが鏡に頭をバン!とぶつけちゃった時は死んだのかな?と思ったけど、だからこそ続くのかなと思ったり、思わなかったり。でも、劇中で「25年目に会いましょう」と予言しているわけでしょう?結果、その時から25年後の続編を考えていたとすると、本当にすごいなあと(笑)。 - Q:25年ぶりの再会に、現場は盛り上がったという話をお聞きしました。
- 原:25年ぶりに会って、久しぶりに同窓会をやったみたいな感じで。ああ、どうも久しぶり、どうも久しぶりと、こんな感じだった(一同:笑う)。
池田:亡くなった方もいらっしゃるんですけど、ほとんどキャスティングはそのままなので懐かしいというか。また声を聞くと、ああ、この声この声って感じで。自分のことは置いておいて、他の方の声を聞いて楽しかった。
江原:僕は25年という長さをそれほどとは感じませんでしたね。そんなに経ったのかなって。
原:向こうの役者さんも、デイヴィッド・リンチの感じもあんまり変わっていないからかな。アルバートも変わってなかった?
江原:好戦的な印象が薄らいで少し落ち着いたのかな?風格が出て、お父さんに似てきたのかも。でも、そんなに大きくは変わってないですよね。もっと大胆に変わっていると思ったんだけど。
原:みんな25年前と同じ雰囲気というか。
江原:25年前にリンチに言われたんじゃないですか?続編作るからよろしく頼むよって(笑)。
池田:それはあり得ない。まさかみんなもやるとは思ってなかったでしょう。
原:リンチもやるとは思ってなかったでしょうね。 - Q:25年ぶりに同じキャラクターをやってみていかがでしたか?
- 原:僕は最初に映像を見たとき、びっくりしました。人格がいくつかに分かれていて、なかなか前のクーパー捜査官に戻らない。ちょっとイライラしましたね。他の方は、そのまま年をとった感じですよね。
一同:そうだね
原:特に池田さんのゴードンはよくしゃべる(一同:笑う)。ゴードンが主役なんじゃないかという勢い。
江原:怒鳴りながらしゃべるからね。 - Q:ゴードンが事件を解決するのでは、と思ってしまいました。
- 池田:ところがどっこい、あの人何もしないで推理だけしている。ほとんど部下に任せて、自分はとんちんかんなことばっかり言っているだけ(笑)。
江原:アルバートは性格変わりました。非常にシニカルでうるさい男だったんですが、ちょっと落ち着いちゃった。だから、日本語吹替版では若干持ち上げています。今回のミゲル・フェラーは、渋めのいい役者風に演じているもんですから。
原:前のシリーズではもっと皮肉屋でね。 - Q:お気に入りのシーンを教えてください。
- 原:覚醒して、「私がFBIだ」というセリフがあるんですよ。かっこいい。やっとクーパーらしい一言で、これをみんな待っていたという感じで。自分でも、ああ、やっとクーパーらしいセリフをしゃべれたと落ち着いた。印象深いですね。
池田:僕は大きな声で難聴でしょ。とんちんかんなやりとりをしたり、駄洒落を言ったり。頭を打ち抜かれた人を見て「死んだー!!」と言ったり(笑)。そういうところが可笑しいなと。ひとりテンションの高さが突き抜けていて、周りと違う。 - Q:リンチだけが解っているシーンがありそうですよね。カイル・マクラクランも、毎回放送を見終わったあとに関連記事を読んで解釈を探っているそうです。
- 原:リンチの中にも正解はないんじゃないのかなと思うんだよね。全部組み立てて作っているようにはどうしても思えない。
江原:今回は全話リンチが監督している。だから余計わからなくなっちゃう(笑)。
原:映像的にも、ひとつのシーンにすごくこだわって長回しをしている。あれはやっぱり「ツイン・ピークス」の特徴だと思う。
江原:北野監督を思い出しちゃった。演出で、そう感じるところがありました。
原:今のテレビは、カットカットがとても早い。でもこれを見ると、ゆっくりでしょう?時間がゆっくり流れている感じがする。それが人間的にはいいんじゃないのかな。時がゆっくりと流れていく。「ツイン・ピークス」の時間が流れていく。人間と時があって、今の世の中と逆光している感じが魅力的な気がする。
江原:アルバートは非暴力主義だけど、それに対して疑問を投げかけるようなシーンが出てくるんですよ。非常に深く考えさせられた。ドキッとしました。「ツイン・ピークス」は、田舎町を舞台にしているけれど、「世界」を強引に押し込んで、僕らの世界は何ひとつわからないところでできているということを、エッセンスを流し込んで、ぐちゃぐちゃにして、さあどうだと提示してくる。それを見ている僕らは、頭で理解しようとしちゃいけない。体感していくというか、経験としてこのシリーズをみて、ああ、そういうことかと。あちこちの「世界」へ行くし、宇宙も含めて僕らを取り巻くすべてのものを提示して、さあどうだ、これがお前らの人生だ、いる場所だと言われている感じ。そりゃ僕らも驚きますよね(笑)。
原:結局、視聴者も皆いろいろ考えて、意見を言い合ったりするから、「ツイン・ピークス」は面白いんじゃないですか。
江原:でもクーパーという存在が一番謎ですよね。
原:自分でやっていてもよくわからない。スピリチュアルな何か、人間界で解き明かせない何かが働いているような気がする。いるわけないよと否定するんだけど、人間以外の何かがあるんじゃないかと思うから、見ていられるかもしれない。やっぱり神がどこかにいる気がする。森の中とかね。
池田:意外な人がピストルを…
江原:あ、それ言っちゃっていいの? - Q:このインタビューが始まる前に聞きました。鳥肌立ちました。
- 池田:だから「ツイン・ピークス」はまだ終わらない、まだ続くという感じがしますよね。今日話を聞いていて思ったけど、ゴードンが発した言葉、ワードがあるでしょ。第17章に初めて出てくるんですよ。25年前やってたはずなのに。で、次の最終回(第18章)には出てこないから、これが解決しなくていいのかいという。それだと何も終わらない。大事なワード。
江原:アルバート役のミゲル・フェラーは亡くなってしまったし、ハリー・ディーン・スタントンさんも亡くなってしまいましたね。だから今度は全く別のシリーズになるんじゃないですか?(笑)
池田 リンチは元気そうだから、やりそう。顔の色艶もいいし、一番元気そう(一同:同意)。今度はなんだ?アゲイン?
※2017年9月 「第17章」アフレコ収録を終えて
- Q:「ツイン・ピークス」の新シリーズが製作されるとわかった時のお気持ちは?
- 安達:本当にびっくりしました。私たちにも箝口令が敷かれていて、シリーズものの仕事が決定しましたとだけ言われて。「ツイン・ピークス」なんだろうとわかったけれど、まだ秘密ですと言われました。
幹本:まだ誰にも言わないでください、と(笑)。
安達:決定になったのに作品名は秘密なんて、こんなことは初めて。
幹本:作品の内容がどうなるのか、誰が出てくるのかもわからなかった。
安達:びっくりと嬉しいが同時に。旧作では、ふたりの間に色々とあったでしょう?だから果たしてどういう状態でふたりが出てくるのかなと思っていました。そうしたらまあ、森の妖精のような夫婦になって出てきたでしょ。ちょっとびっくりしましたよね。
幹本:シーズン1&2は子供なんていなかったけど、今回はウォリーという息子が出てきます。
安達:でも私たちからすると、ふたりの25年後の設定は、デイヴィッド・リンチにしてはすごく真っ当なルート。
幹本:そうそう、真っ当なルートなんですよ。
安達:リンチの中にはいろんな要素、サスペンス、ホラー、オカルトなどがあって、私は、ルーシーとアンディは「森の妖精」部門だと思うんです。童話のような、フェアリーのような。このふたり、生活感がないじゃない?一体、保安官事務所以外ではふたりは何をしているんだろうと思う。もしかすると家に帰ったら、人形みたいに椅子に座っていて、誰かがまた動かして、この保安官事務所にいるのではというイメージすら起きるほど。
幹本:「ツイン・ピークス」の中での、潤滑油的な、うまく物語が進んでいく役割というか。
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- Q:第4章でのおふたりの掛け合いで、ああ、「ツイン・ピークス」だなと思いました。
- 安達:嬉しい。でも実際に考えたら、とても25年間連れ添った夫婦とは思えない仲の良さね。リンチの理想像のお父さんとお母さんで、ウォリーが彼自身というか。こじつければの話だけれど、ちょっとそういう気がしないこともないの。
- Q:第1章をご覧になった時に、どのような感想をお持ちになりましたか?
- 安達:新たなキャラクターや新たな場所、さまざまなものがおもちゃ箱をひっくり返したみたいに散りばめられている。リンチのおもちゃ箱を散らかしたような感じ。どう回収するのかな?彼のことだから回収する気はないなと思いながら見始めました。
- Q:でも、意外と旧シリーズの謎を回収しているようにも思います。
- 安達:第17章までの時点では、回収されていない謎がいくつもあります。でも、ルーシーが携帯電話にこだわっていた謎が、今日解けました(笑)。ここに繋がったんだなと。それと、ローラ・パーマーに対してのリンチの思いというのが、第17章で描かれるんです。
- Q:新シリーズで初めてセリフの掛け合いをしたときの感想を教えてください。
- 安達:やっぱり25年過ぎたなという感じはしました。
幹本:それはもう向こうの役者も僕らも年を重ねるわけで。でも、会ったときは違和感なく、すぐ仕事に入ることができましたね。
安達:昔のルーシーは結構イケイケなところがあった子なんだけど、かわいいまま年を取っていくんだな、いい年の取り方をしていく人なんだなという感じは受けました。 - Q:アンディは、変わらず忍耐強くて優しいキャラクターですね。
- 幹本:優しいけど弱い、そういうキャラです。
安達:でも今回は、力強さも出てきた。私たち、今回はただのコメディ部門の役割かな、物語の本筋には絡まないかなと思っていたら、そうではないんです。そこはどうぞお楽しみに(笑)。まあそんなにわーっと活躍するわけじゃないんですけど。でも、やはりリンチは、キャストをすごく愛しているんだなあと。 - Q:リンチ作品の魅力は何でしょうか?
- 安達:色や造形にすごくこだわりがあります。女性の衣装も、ピンクとか赤とか可愛らしくて、造形的にもこだわりがすごいんです。頭の中に明確なビジョンがあるのでしょうね。ただ、そのビジョンを、誰も言葉では説明できないという(笑)。
幹本:幻想とか幻影とか不思議な世界へ入っていく。理屈ではなく、迷い込ませていくような。
安達:そんなこと説明する必要はないんだと思わせてくれますよね。だってわけわからないのに60分間ずっと見ちゃうんですよ。巻き戻しも早送りもせずに見ちゃう。 - Q:好きなシーンを教えてください。
- 幹本:第4章だったかな。子供が出てきて、ああいうアットホームなところが好きですね。
安達:あのシーンで何がおかしいって、あの子がそんなにかっこいいタイプの子じゃないのに、すっかりマーロン・ブランドを気取っていて、そしてふたりがあの子の肩に手をかけて、まるで肖像画のようになっているの。彼らに絡むトルーマン保安官が、ちょっと引いているような空気感。それが可笑しくて、可笑しくて。でも、あの子、そのあと結局最後まで出てこないんだもの。 - Q:森と何か関係があるのかと思いました。
- 安達:でしょう?何にもないの(笑)。その放置の状態が可笑しくて。私の好きなシーンは何と言っても、第17章の日本語吹替版の台本でいうと25ページのところです。(注釈:第17章本編開始から22分あたりが該当シーンになります)
幹本:あれはびっくりですよ、本当に。
安達:家で台本呼んで声をあげちゃいました。 - Q:「ツイン・ピークス」は、かなり特異なドラマです。
- 安達:こんなの初めて見たドラマでした。私は、旧シリーズは皆勤賞なんですよ。ちょこちょこ毎回出ているわけですけど、どういう話なのか聞かれても説明できませんでした。
幹本:すごいブームだったから、結構聞かれたりしたけれど、私も全然説明できなかったですね。でも、アンディとルーシーのコンビは、ドラマがスタートしてからいまだに続いているわけだから、感慨深いものがありますね。
※2017年9月 「第17章」アフレコ収録を終えて
Q:旧シリーズをリアルタイムでご覧になっていらしたそうですが、旧シリーズからの主要キャストが揃う撮影現場に初めて入った時は、どのような気持ちになりましたか?
見たかった!とにかく!見えないんですよ、みんないるのに。そこにアンディやルーシーがいるのに。(注釈:裕木さんは、役のため目を覆うメイクをしていました) ルーシー役のキミー・ロバートソンさんに「あなたのキャラクターが大好き!でも見ることができないの」って言ったら、ケラケラ笑って「そうねぇ」って(笑)。後日、みんなで集まって「ツイン・ピークス」を見ようという会があって、彼女とはその時に会えました。「私、ナイド!」とご挨拶して(笑)。一緒に写真も撮りました。嬉しかったですね。Q:撮影現場での交流で、特に印象深かった出演者と、そのエピソードを教えてください。
共演シーンが一番多かったのは、カイルさんですね。カイルさんは、すごく紳士。私は7センチぐらいのピンヒールを履いて、何も見えない状態でセットを登ったり降りたりしなくてはならないという結構怖い状態で、いつもADさんなど誰かがついていてくださるのですが、ある日、そばにいるのがカイルさんだと気づいたんです。監督はタバコの匂いがするけど、カイルさんは無臭だから。本当に優しい方。とても感動しました。その時の、カイルさんが私の手をとってスタート地点までエスコートしてくださった様子をスタッフさんが写真に撮っていて、送ってくださったんですよ。Q:普段使わない能力を磨いた感じですね?
そうですね。撮影の2日目頃からは、目を覆ったメイクのままでも、ひとりで行動できるようになりました。10歩以内の範囲では、何があるか完璧に把握できましたね。人間ってすごいですよ。感覚は慣れるんです。Q:演じたあなた自身にとって、ナイドとは、どんなキャラクターですか?
あの不思議な空間に隔離されていながら、あの世界に守られている存在。年を重ねたままの姿で、魂となっても怯え続けている人間も登場しますが、私は人間じゃない、よくわからない存在としてあの空間に隔離されているの。マシーンをコントロールしたりしている(笑)。Q:あのマシーンには驚きましたね。
台本にはあったけれど、セットで実物を見た時には驚きました。結構高さがあって、浮いている感じがして。「見ちゃうと怖くなるかもしれないけれど、ハーネスをつけて上まで登って行って、危ないからハーネスをつけたままお芝居をするんだよ」と説明されました。実際、結構高いところでお芝居をしたんです。何なんだろう、この形は、と思いながら(笑)。Q:ブルーレイBOXの特典映像では、デイヴィッド・リンチ自らあのマシーンを作っている様子を見ることができます。
監督が自分で下絵を描いて、フォルムを作っていたんですね。そういう制作現場は、私は見ていませんでした。マシーンの煙が出てくる部分を、監督が自分で削っているシーンも出てきましたよね。見ていて楽しくなりました。『インランド・エンパイア』に出演した時、撮影が始まる前に一度セットに遊びに行ったんです。そしたら、監督が「こっちこっち」って。「ごめんね、僕、今風邪を引いているから近づかない方がいいよ」なんて言いながら、すごく楽しそうにひとりで壁を塗っていたんですよ。本当に好きなんですね。本当に好きで映画を作っている。いいですよね。Q:同じくブルーレイBOXに収録されたメイキング映像の中で、「第14章」の保安官事務所の留置所にナイドが隔離されたシーンの撮影風景もあり、リンチが、目を覆うメイクをした状態の裕木さんに演技指示をする姿を観ることができます。あのシーンの撮影エピソードを教えてください。
監督は、本来は身振り手振りで演じ方を教えてくれるのですが、私は見えないので、「カマキリのように、こう、くうっと首を伸ばして」、「何かが来る、それを手で感じて」というように、細かい動作や役の心情を、私の耳元でささやいてくれたんです。来てはいけないものがこっちに来ようとしている、それはボブのことで、ナイドは、ボブを近くに感じている。監督は、その心情を言葉で伝えてくれました。Q:日本の「ツイン・ピークス」ファンにメッセージをいただけますか?
ぜひぜひ、コーヒーとドーナツとチェリーパイを用意してイッキ見してください!アドレナリンと眠気とで、ふらふらになりながら。第8章を観て「何なんだ!この第8章は」と驚くことになります。でも、そこからまだ10話あります。「自分は今、いったい何を観ているんだろう?」と延々と思いながら第17章まで観ます。そして、ついに第18章。すると、「この第18章は何だったんだ?」と(笑)。誰とも共有し得ない感覚を、ひとりで体験してください。人間別に1日寝なくても大丈夫。だからイッキ見してください。ドーナツ屋さんに行ってドーナツを数種買って、コーヒーも種類を揃えて。準備万端用意し、家から出ないでイッキ見します。私だったらね(笑)。