家族の絆や葛藤は、一度観ればビビッドに伝わってくる。しかし、何度も観ていくと、クリスさんはある描写に引きつけられるようになった。
「結婚式はもちろん、何かを相談するときも、つねにみんな食べている(笑)。どんな映画も、食事のシーンは“しずる感”を与えますが、とくに『ゴッドファーザー』はその印象が強いですね。(三男の)マイケルがレストランで殺しに手を染めるシーンも、その直前まで料理をおいしそうに食べています。(父の)ドンが命を狙われたときも食材を手にしていたりと、生と死に“食”が結びついている。そのおもしろさは、大人になって何度か観るうちに理解していきました。だから観直すときは、こちらも料理を用意します。飲み物は、絶対に赤のイタリアンワインですね(笑)。こうした楽しみ方も本作の大きな魅力なのです」
キャラクターや俳優では、やはり核となるふたりの印象が強いと言う。
「みな個性的なキャラクターですが、俳優ではアル・パチーノの印象が強烈です。彼が演じるマイケルは、カタギとしての将来が約束されながら、やがてファミリービジネスを継ぐ決意をする。その悲壮感が胸にしみます。家業に加わった後のマイケルは帽子を被りますが、あれは“コッポラ帽”と呼ばれているそうですね。顔を覆うのと同時に、危険な運命に足を踏み入れる象徴でしょう。ドン役には、ローレンス・オリヴィエ、バート・ランカスター、フランク・シナトラらが候補に上がったそうですが、彼らを押しのけたマーロン・ブランドの存在感は半端じゃなかった。セリフも覚えてこなくて、現場は大変だったそうで、そのあたりも大物らしいですね」
もちろんブランドの豪快っぷりを名演に変えたのは、フランシス・フォード・コッポラ監督の手腕であり、彼のこだわりの演出にクリスさんは芳醇な味わいを感じたようだ。
「僕はロングショットでじっくり観るタイプの映画が好きなので、『ゴッドファーザー』のゆったりしたカメラワークが心地いいですね。複数の殺害シーンをカットバックの繰り返しで絡めるなど、現在は多用されている手法も、コッポラは本作で先取りしています。'72年の映画ですが、舞台は50年代のNYということで、絵画のようなセピア調の画面も美しい。NYといえば、コッポラがこの映画にNYの独特なイタリア系の文化を散りばめたことで、“イタリアン”のアイコンが作られた気がしますね。バイオレンスの演出はもちろん、“描く文化”にしても、スコセッシたちにずいぶん影響を与えたのではないでしょうか」
『ゴッドファーザー』は'74年の『PartⅡ』、'90年の『PartⅢ』と、全3作が製作された。時代とともに壮大になっていく家族の運命。それを追い求めるコッポラの執念に、クリスさんは思いを巡らせる。
「『PartⅡ』はロバート・デ・ニーロの才能を世に知らしめますし、16年のブランクを経た後の『PartⅢ』はラストシーンが心に染みます。結末に込められた、打ちひしがれた敗北感は、ギリシャ悲劇やシェイクスピアに通じますね。映像はリアルに徹しつつ、現実を超える寓話性や神話性を作品に帯びさせる。その最たる成功例が『ゴッドファーザー』だと、僕は確信しています」
Text●斉藤博昭 Photo●利根川幸秀
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