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COLUMN

「スター・トレック:ストレンジ・ニュー・ワールド」が新たな伝説を作る

丹羽正之(翻訳家/本作日本語版監修)

ストレンジ・ニュー・ワールド(SNW)は23世紀が舞台のスター・トレックだ。ここではSNWが生まれた経緯を整理して、その意味や魅力を考えたい。

スター・トレックは1960年代のオリジナル・シリーズ(TOS)で23世紀後半の未来を描いた。カークやスポックの時代だ。しかし1980年代の新スター・トレック(TNG)から時代設定が24世紀後半に移った。いわばピカードの時代である。22世紀を描いたエンタープライズ(ENT)はあるものの、TNGの流れのテレビシリーズで合計500話以上が作られたことで、スター・トレックは24世紀というイメージが強くなった。

その流れを変えたのが、2017年から放映が始まったディスカバリー(DIS)である。同シリーズでは時代設定を23世紀、すなわちTOSの10年ほど前とし、さらに様々な設定を加えることで、これまでは描かれなかった歴史にスポットライトを当てたのだ。たとえば主人公のマイケル・バーナムをスポックの義理の姉とすることで、地球とバルカン星の歴史を示すとともに、両方の血を引くスポックの知られざる苦悩を描いた。あるいはディスカバリー号に胞子ドライブという瞬間移動の機能を与えることで広範囲の行動を可能にして、23世紀の宇宙情勢を詳しく描いた。

さらにシーズン2では、エンタープライズ号とパイク船長、スポック、ナンバー・ワンも登場して、TOSの歴史と重なる部分も出てきた。タロス星をたずねるエピソードのように、TOSへのオマージュが随所に見られた。そしてTOSの歴史の隠れた部分を描くことで、その時代の魅力と可能性を引き出したのだ。

しかしディスカバリー号は、シーズン2の最後で32世紀へ旅立ち、23世紀から姿を消す。その行動は機密とされて、艦隊の歴史からも消えた。エンタープライズ号のパイクやスポックたちは、ディスカバリー号の秘密を胸に秘めて、23世紀に残った。SNWのシーズン1は、その3か月後から始まるという設定だ。彼らがTOSにつながる歴史を歩むことになったのである。

制作陣がこの移行(スピンオフ)を最初から計画していたかは分からないが、23世紀には未知の部分が残されていると考えていたことは確かだろう。TOSはわずか3シーズンで終わり、一話完結のせいで、後日談は映画版でしか描かれていない。クルーの生い立ちや、異星人の詳細もあまり語られていない。

TOSではナンバー・ワンという名前しか出ていなかった副長ウーナだが、SNWではその生い立ちが明らかになる。TOSのタロス星のシーンではスポックは笑っていたが、彼がいかなる成長を経て、後のスポックになるのかが気になるところだ。さらに、ウフーラはまだ候補生だが、どのようにして通信士官になるのか、その成長を見てみたい。

ストレンジ・ニュー・ワールドによって、クルーの背景をより深く知ることができるだろう。まさにTOSの世界をもっと見たい、知りたいというファンの願いをかなえるものだ。それはスター・トレックの原点への回帰であるとともに、新たな伝説の始まりともいえるだろう。