Part3 ■『トリプルX』は世界を見ている

基本的には、アメリカ国内の様々なマイノリティにスポットを当てるように展開してきたのが『ワイルド・スピード』シリーズ。
それに対して、アメリカ国外――特にアジア――に目を向け、広く人材を集めて作り上げたのが『トリプルX:再起動』と言えるだろう。
実際、主人公グループを10人と考えた場合(チームXanderとチームXiang、そしてベッキーとダリアス・ストーンを含める)、それを演じる役者たちの中でアメリカ国籍なのはヴィンさまとアイス・キューブのみという徹底ぶりである。
出自に注目して、その主役グループ10人を演じる俳優をプロファイルしたものを以下に記しておく。「役名/俳優の名前(民族と国籍)前職など」の順序だ。

【Team Xander】
●ザンダー/ヴィン・ディーゼル(アフリカ系他アメリカ人)ヒップホップ・ダンスと用心棒稼業
●テニソン/ロリー・マッキャン(スコットランド人)絵描き&山ごもり
●アデル/ルビー・ローズ(ドイツ系他オーストラリア人)モデル
●ニックス/クリス・ウー(中国系カナダ人)K-POP

【Team Xiang】
●ジャン/ドニー・イェン(香港人)カンフー
●タロン/トニー・ジャー(クイ系タイ人)ムエタイ
●ホーク/マイケル・ビスピン(ポーランド他系イングランド人)UFC
●セリーナ/ディーピカー・パードゥコーン(コンカニ系インド人)モデル

【サポートチーム?】
●ベッキー/ニーナ・ドブレフ(ブルガリア系カナダ人)女優
●ダリアス/アイス・キューブ(アフリカ系アメリカ人)ヒップホップと建築学

民族的にも国籍的に職歴的にも、なんと多彩なバックグラウンドを持った猛者どもが集った映画なのだろう、本作は! だからこそ愛しているのだ、著者は。
ここからは、そんな『トリプルX:再起動』にまつわるミニエピソードを羅列してみる。

■ストレイト・アウタ・ネクストレベル
筆者自身が最も感動したのは、本作終盤におけるアイス・キューブの登場だ。
何と言ってもキューブ主演の前作『トリプルX:ネクストレベル』は、批評的にも興行的にも今ひとつだった(筆者は好きだが)。ヴィンさまは同作に顔も出さないわけだから、本作『トリプルX:再起動』でヴィンさまが復帰を果たしたことをきっかけに、正史から除外され、なかったことにされても不思議ではなかったのだ。そんな第2作も、きっちりシリーズ正編として位置付ける度量の大きさよ。キューブへの花の持たせ方も素晴らしい!
この感激の背景には、筆者(西海岸ヒップホップ愛聴者)が抱くアイス・キューブへの思い入れもあるにはある。だが実際、原点回帰と伏線回収を同時に成し遂げつつテコ入れする……という理想的なシリーズ継続方法と言えるのではなかろうか。『ワイルド・スピード』同様に、ファミリーが拡大しつつ物語が展開していきそうな予感もあるし。

■ドミニカに捧ぐ
最大の当たり役『ワイルド・スピード』のドミニク・トレットは設定上ラティーノ(たぶんメキシコ系)だが、本人はラティーノではない……それがヴィンさま。だが、スペイン語圏カリブ海の国家、ドミニカ共和国を愛してやまないという。
そのヴィンさまは、10年ほど前に時のドミニカ大統領レオネル・フェルナンデスに「どうやったらハリウッドの映画産業を我が国に誘致できるだろう?」と相談された。つまり「映画による国おこし」だな。だがヴィンさまは「スタジオを作るのもいいが、映画を作れる人材を育てないと」と助言。「魚を与えるより、魚のとりかたを教えるべき」という道教的なロジックである。
そんなわけで、ヴィンさまが資金の大半を担って設立されたのがOne Race Global Film Foundationであり、そのワークショップ・プログラムはヴィンさまの継父がニューヨーク大学で教えているコースに着想を得たものだとか。
こうしてヴィンさまが撒いた種子は着実に実っている。まさに、そのドミニカでかなりの部分を撮影した本作『トリプルX:再起動』には、このワークショップを経て映画業界入りした人々が関わっているのだ!
こんな美談、本当にあるのだなあ。

■EX-EXO
本作でニックスを演じるクリス・ウー(Kris Wu)こと呉亦凡のキャリアは興味深い。
広東省で生まれ、10歳の時にヴァンクーヴァーに移り住んだ彼は中国系カナダ人のラッパー/ダンサー転じてアクターである。
もともとは、K-POP界最強の事務所「SMエンタテインメント」が送り出した12人グループ「EXO」のメンバーだった。このEXOは、韓国語チーム(EXO-K)6人と北京語(マンダリン)チーム(EXO-M)6人に分かれ、同じ曲を違う言語で歌ったものを収録した別々のアルバム(韓国語盤と北京語盤)を出すという作戦でデビューした画期的なグループ。事務所としては「一粒で二度美味しい」し、今後の北京語マーケットを見据えた英断と言えよう。そんなこんなで韓国発アーティストとしては、12年ぶりにミリオンセラーを記録するという事件も起きた。
だが、北京語チームからは脱退が相次ぎ、「6人+6人」体制は崩壊する。そんな足抜け組の一人がクリス・ウー。その後は、チャウ・シンチー制作の『西遊記』映画で見目麗しい三蔵法師を演じるなど、中華圏の売れっ子若手俳優として活躍しながら、音楽活動も続けている。
本作『トリプルX:再起動』で最高なのは、ちゃんとK-POPファンへの目配せがあること。ニックスが目をつけた「国防研究局の地上戦用グローブ」を説明する際、ベッキーは「EXO-gloves」と言っているのだ! この場合、EXOとは「外骨格」の意味と理解すべきだろうけど。

■ボーナスビーツ
その他、「お母さんはウータン・クラン」「ゴッドファーザーは先住民」「セリフはほとんど“象を返せ!”だった」というタイトルで、ドニー・イェン、ルビー・ローズ、トニー・ジャーについてもそれぞれ書いていたが、あまりの長文になってしまったために割愛する。特に、我が家で「葉っぱの先生」と呼ばれるドニー・イェンに関しては、ヴィンさまと同じくらい思い入れがあるので、そう簡単には書き切れん。

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)QB MARUYA