Part1 ■全人類希望の星、ヴィンさま

主演俳優/プロデューサーとして『ワイルド・スピード』をユニバーサル映画が誇る最大ヒットシリーズに育てあげたヴィン・ディーゼルの凄さは誰もが知っている。
 だが、彼の大きさ、その存在と包容力の巨大さが明らかになるのは、この『トリプルX:再起動』においてだ。

エクストリームスポーツとオタク志向。
ラテン趣味とカンフー。
K-POPとスパイアクション
ヒップホップとファンタジー。
一見すると繋がりそうもない様々な要素を軽々とドッキングさせてしまうヴィン・ディーゼル(以下、筆者の思い入れにもとづき「ヴィンさま」と呼称する)は、一人の人間であると同時に、一個の「文化交差点」とも呼ぶべき、類い稀な革命家なのだ。

とはいえ。本作『トリプルX:再起動』は、普通に見る限り、軽い気分で楽しめるアクション大作。いわば「最高の馬鹿アクション」である。それも、香港カンフー映画にも似た、潔いまでに整合性のなさが光るタイプの。
さっきまで殺意さえ抱いて争っていた相手といきなり打ち解けて同志となる変わり身の早さたるや、その間、わずか30秒。車に轢かれたばかりの主人公たちは元気に立ち上がって走り出すし、パラシュート付きで落下した悪役は死んだ(と推定される)のに、主人公グループの一人(脚を撃たれたばかり)はパラシュートを装着せず飛行機から落ちても数分後にピンピンして登場する。ひょんなことから奇跡的に弾丸が当たってしまい絶命するパイロット。銃器が不得手な某女史が幸運なアクシデントで敵のスナイパーを撃退する展開が2回も。
これを「すがすがしい馬鹿アクション傑作」と呼ばずして、何と呼ぼう。

だが、優れたエンタテインメントが概してそうであるように、『トリプルX:再起動』も、その根底にはメッセージがある。
あくまでもエンタテインメント路線をひた走りながらも、アメリカ映画界に革命を起こしつつあるヴィンさまが、極論すれば全人類にとって――君がマイノリティだったり、オタクだったり、外見のせいで誤解されやすいタイプだったりする場合は、特に――希望の星であること。この原稿では、それを証明したいと思う。
丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)QB MARUYA

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/差別研究家/ラジオDJ/どこでもトーカー。超ニッチなオタク的カテゴリーから学術的分野までをカバーするムダな知識で人々を混乱させてきた。
2017年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共にレッドブル・スタジオ東京で展開中。

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